取材・文・撮影/勝又啓太
(Sketches of Design/kasekicider.com 管理人)
ここ最近、かせきさいだぁ+木暮晋也(ヒックスヴィル)によるユニット・トーテムロックの活動が熱い。
2012年09月26日には、iTunes での配信限定でシングル『ホリデイ featuring 夢眠ねむ(でんぱ組.inc)』を発売。そして、長らく入手困難だった唯一のアルバム『TOTEM ROCK EP』が、2013年02月06日にリマスターおよび上記シングルを追加して再リリース。
この再発を記念して、ユニット誕生秘話からユニット名の由来、果てはでんぱ組.incをはじめとしたアイドルへの曲提供チームとしての活動まで、トーテムロックの全貌を明らかにするロングインタビューを敢行。
かせきさいだぁ、ヒックスヴィルファンのみならず、アイドルファンも見逃せない内容となっています!
出会いから『SKYNUTS』まで
――おふたりのつきあいは、もう20年以上とのことですが、どんな出会いだったのでしょうか?
かせき原宿クロコダイルにヒックスヴィルを観に行った時、タケイグッドマンに紹介してもらったんです。木暮さんは小沢(健二)くんのバックバンドのギター、グッドマンは『今夜はブギーバック』をはじめとしたPV作っていて、そのつながりですね。
その前に「ライダー」収録のデモテープを聴かせてもらっていたんですけど、すごくカッコ良くて。僕ももうじきデビューで、木暮さんと何か一緒にできないかなと。
木暮- 僕も加藤くん(※)の4曲入りカセットもらって。こんなきっかけで、インディーズ盤ファースト(『かせきさいだぁ≡』1995年10月発売)のレコーディングに作曲とギターで参加(「土曜日のかせきさいだぁ」「冬へと走り出そう・再び」「ディグ・ダグ・プーカ」)したんだよね。
※かせきさいだぁのこと。念のため。
――木暮さんと言えばロックンローラー!というイメージですが、当時からヒップホップに親しんでいたのでしょうか?
木暮洋楽のヒット曲として、Run-D.M.C.を聞きかじっていたくらい。でも、スチャ(ダラパー)が好きっていう土壌はあって。彼らが出てきた時、「日本にもついにヒップホップやる連中が出てきたのか」って、興味持って、それから面白く聴いてたんだよね。
でも、僕たちバンドマンの活動拠点はバンド中心のライブハウスとかだから、周りにヒップホップやっている人なんていないわけ。だから、加藤くんと共演させてもらえることになって、「ついに僕もヒップホップのシーンにたどり着いたか!」ってワクワクしたのを覚えてる。
かせき- 当時バンドとヒップホップのシーンの交流はほとんどないですからね。一方、木暮さんは後の渋谷系に近しいところにいたこともあって、すんなり入り込めたのかもしれません。
木暮で、頼まれたものの、いざ作曲となると、ヒップホップの手法がわからないわけ。そこで、スチャやTOKYO No.1 SOUL SETを研究して、自分なりのやり方を模索して。あとは、「ヒップホップはサンプラーで作るもんでしょ」と、AKAIのS2800という中古のサンプラーを買って、ネタ探してきてサンプリングしたり、自分でギター弾いてそれをループしたり試行錯誤。
最初は説明書読んでもサンプラーの使い方すらわからなかったので、佐藤(伸治)くん(故人、フィッシュマンズ)に使い方教えてもらったなあ。フィッシュマンズは当時すでに、生演奏とサンプラー組み合わせてたんだよね。こうして最初にできたのが「ディグ・ダグ・プーカ」だったかな。
かせき- 実は木暮さんが作ってきたデモ、ヒップホップ的には小節数がおかしかったんですよ。でも、あえて僕はそれに合わせてラップしたんです。普通にやっちゃうと、16小節ラップして、間奏があって……みたいな。ヒップホップ畑じゃない木暮さんには、そうじゃないのを求めていたんですよ。
木暮- ブルーズは12小節というのは身体が覚えているけれども、ヒップホップは1ヴァース=16小節という常識すら知らなくてね(笑)。
――そして、かせきさんのメジャーデビューシングル「さいだぁぶるーす」(1996年08月01日発売)には、ヒックスヴィル全員が参加しています。
かせき- これもいかにもヒップホップ的なエピソードなんですけど、トラックで使っていたネタに問題があって、急遽、生演奏に差し替えなる必要がでてきて、ヒックスヴィルのギタリストおふたりに白羽の矢が立ったというわけです(笑)。
木暮- 一時間くらいで録ったね。まさに苦肉の策(笑)。
かせき- さらに(イリシボット・)ツボイくんが「生ベースも欲しい」って言うから、ちょっと前に番号交換したばかりのカジ(ヒデキ)くんに電話したところ、たまたま近くにいるって来てくれた。しかも、たしか友だちのだったか、スタジオに置いてあるベースを使ったんじゃなかったかな。こういう場当たり的なところがヒップホップにはあって。
木暮- それでも成立しちゃうのが面白いよね。そんなことも含めて、カルチャーショックの連続だった。たとえばヒップホップって、曲の歌詞中で、自分の名前連呼するじゃない。あれもロック畑からすると違和感というか。やっぱり最初は誰しも恥ずかしいもの?
かせき- 僕の場合、もともと「かせきさいだぁ」は人名じゃなく、架空の飲み物(※)だから、特に恥ずかしげなく、リリックに入れ込めるというのはあるかも。逆手にとって宣伝にもなるしで(笑)、ラップじゃなくてもどんどん入れてますね。「CIDERが止まらない」とか、「サイダービーチは柑橘系」とか。
※「土曜日のかせきさいだぁ」は、かせきさいだぁの前身ユニット・トンペイズで最後に作った曲であり、「かせきさいだぁ」はそこからとった名前である。
木暮- そういうところに自然とヒップホップのスタンスが出るよね。やっぱりこれは異種格闘技戦で、かせきさいだぁVS木暮晋也という興業が20年も続いている感じ(笑)。
――続いてかせきさんのセカンドアルバム『SKYNUTS』(1998年08月21日発売)では、「急げハリー!!」での共演ですね。
かせき- 「急げハリー!!」は、「こういうのがやりたいね」と、木暮さんとがっぷり四つに組んだやりとりをして完成したんですけど、最終的に「けっこうな高みまできたなあ」と自負があって。こんなサウンドでラップしているのって、唯一無二だぞ、と。それなのにあんまり理解してもらえなかったのが歯がゆかったですね(笑)。
木暮- The Jim Kweskin Jug Band という60年代のジャグバンドをお手本にして、トラディショナルなカントリーとかブルースを感じさせるトラック。逆に新しいぞと。
かせき- でも、ヤングには伝わらないばかりか、アダルトもラップが入ると聴かないという(笑)。誰にも追いつけないサウンドにはなったんだけど、それは誰もフォロワーになってくれないってことでもあって……(笑)。
木暮- その点、ほんと敗北感に尽きるよね(笑)。